事例Ⅰ
用語の解説
- ビジネスフォーム
- 事務処理用に用いられる書式の決まった帳票
- オフセット印刷
- 版を必要とする印刷手法
- オンデマンド印刷
- 版を作る必要が無く、デジタルデータを直接印刷する手法
先代社長の経営戦略を分析させる問が多かった。
第1問
クライアントからの質問への回答というより、元社長の経営戦略を分析させる問題だ。
- 印刷業が技術革新により低収益化する中
- 差別化による生存を図る為
- 高収益な美術印刷への資源集中を選び
- ファブレス化・専門企業に外注化して
- 顧客の細かいニーズに応じるという判断をしたこと
印刷業が低収益化している理由に字数を割くのは的確とは言い難い。なぜなら技術革新に投資するという事業戦略もあり得たからだ。
事例Ⅰは組織戦略の科目なので「専門企業に外注化」という要素は重要。
第2問
模範解答
これも経営戦略を分析させる問題。「考えられるか」という推測を求められる問題なので、与件文に根拠が無くても蓋然性が高ければ書いて良い。
- 2代目はデザインと印刷コンテンツのデジタル化を目指していたが
- 社内に適した人材がおらず
- 当分野に知識と人脈のある3代目を採用し統括を任せる事で
- デザイン部門の成功と将来の後継に期待したからと考えられる
問題文中の「A社での経験のなかった」という部分への直接の答え「社内に適した人材がおらず」が書けていた受験者は少なかったようだ。
回答の戦略
中小企業診断協会は本問の出題趣旨を「先代経営者からの事業承継や後継経営者の新規事業の立ち上げに関して、経営組織の視点から分析する能力を問う」と公表しているが、問題文から事業承継という観点を読み取ることは難しいので悪問。しかし以下の戦略によって出題趣旨を忖度し高得点が得られるような回答をすることができる。
- 第4, 第5問では事業承継がテーマとなっている為、回答欄に清書する前に全ての問題を読んで「問いの流れ」を把握する
- 事例Ⅰは組織・人事がテーマであることを意識する
第3問
これも経営戦略を分析させる問題。
- 利点
- 印刷事業とのノウハウや資源のシナジー効果
- 成長するドメインに拡大する事で生存力強化できる事(差別化)
- 多角化による収益安定化
- 欠点
- 営業活動が必要となり財務負担が増した事
- 多角化によるセクショナリズム
出題趣旨は「事例企業の競合との差別化や新規事業と既存事業とのシナジー効果について、事業戦略の視点から分析する能力を問う」。回答欄に「差別化」というワードを書くだけでは説明不足。
事例Ⅰは組織戦略の科目なので「営業活動が必要」「セクショナリズム」という要素は重要。
第4問
ようやく現れた質疑応答問題。
- 競争優位に立つ
- 取引先と長期的関係を築きノウハウ蓄積し、専門化を進める
- ノウハウ流出を防止、取引コスト減
- 関係良好な取引先を子会社化・採用
- 業務効率化と需要創出
- 双方向の情報交換
自由度の高い設問だが、事例Ⅰは組織戦略の科目なので「関係良好な取引先を子会社化・採用」という要素は重要。
第5問
- 3代目が自社内外の印刷業の知見を深めること(第2問)
- 印刷業界の人と交流を深める
- 全社的売上の回復(第10段落)
- 社長も含めた営業力強化(第10段落)
- インターネットを活用した、既存客の情報に依らない販路開拓(第10段落)
問題文の「印刷業を含めた全社の経営を引き継ぎ」という要素を盛り込む必要がある。ここでは、第2問で示されている「3代目がA社での経験が浅い事」に注目すべき。
第10段落から全社的売上の回復が課題であることが分かる。同段落では弱みとして「3代目は営業を行わず」、「地場的な市場を引き継ぎ、販路が既存顧客からの紹介や口コミに依存していること」が挙げられているので、これを解消するような提案をしよう。
事例Ⅱ
- 問題(PDF)
- 再現答案(点数): 84, 77, 75, 77, 75, 75
与件文の第8段落のインスタント・メッセージ(IM)なんてあまり聞かないのだが、出題者が時代遅れなのではないか?
第1問
- S
- 良質な地元大豆と、それを活かした豆腐丼などの製品
- Y社との関係
- 収穫祭での愛顧拡大
- 試食という販売手法
- W
- 受注用サイトを持たない
- 主婦層の顧客が少ない
- 移動販売の売上減
- O
- 食事にこだわる家庭の増加
- ECサイトでの売上増
- 置き配需要の増加
- 口コミでの顧客獲得
- T
- 感染症に伴う売上減
- ECサイトやスーパーの競合製品の存在
第2問
読みやすいように、「ターゲット」「販売対象」「販売の工夫」に文を分けた方が良い。4P戦略に則って、製品、価格、チャネル、プロモーションの全てに言及できていると望ましいだろう。
- ターゲット
- 主婦層
- 食事にこだわる家庭
- どの商品
- 手作り豆腐セットで出来立ての味を届ける
- どのように販売
- Y社サイトで販売
- 地元の新米や地下水とセットにして豆腐丼を販売
- 豆腐丼などのレシピを紹介
- 地元産や水質を訴求し高価格帯で差別化
第3問
高得点者でも回答に窮したらしく、チラシ・アンケートなどの定型句で回答欄を埋める人が多かった。「置き配」や「高齢者顧客」といった特徴を捉えた回答が必要となる。
- フランチャイザー
- 新商品の定期投入
- フランチャイジーへ、顧客への配布用として試食品や冷蔵BOXを無償提供
- チラシの作成
- アンケートで需要把握
- フランチャイジー
- 顧客へ置き配についての事前確認
- チラシの配布
- 電話対応
- 高齢者は感染リスク高いので必ずマスク着けて配達
- 宅配は口コミで評価が広がりにくいので、知人に商品を紹介するよう要請
第4問
- 製品戦略
- 地元和菓子店と共同開発
- 主婦の子も標的とするため、子供ウケが良い見た目・味の開発
- コミュニケーション戦略
- 子供ウケの良い広告
- IMで需要把握と情報発信し関係強化
- 地元産をアピール
事例Ⅲ
第1問
- 強み
- 手作り感ある高級な自社ブランドの販売・修理
- 一貫受注体制
- オンライン販売体制
- 弱み
- 受託品の収益性が低い
- 熟練職人の高齢化
- 企画開発・製造の能力不足
- 低い需要予測精度
第2問
一つの課題に対して80字も書くのは厳しいので、課題を「生産計画の改善」のように広い概念を設定することで多くの改善策を書けるようにしよう。
- 計画変更や欠品が生じる生産計画の改善
- 受注や在庫情報の一元管理する担当者の設置
- 調達チャネル拡大や代替資材の検討で欠品を防ぐ
- 計画立案の週次化
- 小ロット化で受注に対応し在庫適正化
- 製造全体の技術習熟を進めること
- OJTによる多能工化
- 作業のマニュアル化で効率的な習熟
- 自社ブランドの製造・修理の専任化
- 自動化による工程の効率化
第3問
第2問と内容が重複する項目も出てくるだろう。第2問の方が書きにくいので、第2問を優先して書いて、残った項目を第3問に書くと重複を減らせる。
「課題」は弱みや問題点とは異なるので注意。課題だけでなくその対策まで書いてしまっている予備校や受験生がいるが、得点にならない恐れがある。
- 製品企画面
- ニーズ収集による企画立案の強化
- 生産面
- 受注生産の割り込みによる生産計画の混乱を防ぐ
- 修理作業の負担軽減
- 縫製・仕上げ技術の継承
- 発注と在庫の適正化
- 工程の自動化
第4問
回答欄が140字と大きいので、十分な分量を書ける方を選ぶことになる。とは言え、第3問からの流れを考慮すると手作りに拘る方針を選ぶのが自然だ。他の設問と内容が被らないように対応策を書くのは難しい為、方針を選んだ理由も、説得力を増すことも兼ねて書こう。
手作りに拘るか否かの判断自体よりも説得力のある説明ができているかで点数が決まると思われる。多くの受験生は手作り路線を選んだが、まんさんはアイテム数を増やす路線を選んで71点という高得点を獲得した。
事例Ⅳ
第2問は不備があったものの会計理論を深く理解する上では良いテーマなので、深堀りして解説している。
第1問
財務指標を4つ答えさせるのは異例。優れている指標として棚卸資産回転率、有形固定資産回転率、売上高総利益率が候補になるが、以下の理由で、棚卸資産回転率と売上高総利益率を選ぶべきだ。
- 指標は多様である方が望ましいので、効率性と収益性から一つずつ選ぶべき
- 有形固定資産回転率は同業他社より優れているのだが、「移動販売事業は不採算」、「販売用のトラックはすべてD社が保有」と書かれているので、優れている指標として選ぶのは望ましくない。
- 一定数の固定客がいる ⇒ 需要予測が容易 ⇒ 在庫量が少ない ⇒ 棚卸資産回転率が高い
第2問
2022年度以降の予想PLが示されていないので、CFを求めることはできない(出題の趣旨には差額CFと書かれているのに…)。事例Ⅳに不適切問題があるのはいつもの事だが、出題意図は「フルセルフレジを導入した場合としなかった場合の差額CF」を求めさせることだと判断して計算しよう。この他にも説明に不備があるため予備校によって解答が分かれているが、90点を獲得した再現答案が作問者が想定した正解だろう。
設問1「セミセルフレジ売却収益の扱い」
設問1, 2では、「現在保有しているセミセルフレジは1台当たり8万円で下取りされ、フ
ルセルフレジの代価から差し引かれる」という条件の解釈が難しい。この一文は「セミセルフレジの下取り価格を0円にする代わりにフルセルフレジを8万円値引きする」という意味ではない。それは設問3の「セミセルフレジの下取り価格が0円となるものの、フルセルフレジを値引きしてくれる」という表現と差が付けられていることからも推定できる。
そもそも資産に対して減価償却が行われる理由は、費用を収益に対応させることにある。資産売却するとその資産を利用した収益は得られなくなるので、減価償却費の計上もできない。
償却期間の途中で旧セミセルフレジを売却すると帳簿価額が残るが、これを売却収益と対応付ける。帳簿価額と売却収益の差額は特別損失として計上する。「フルセルフレジの代価から差し引かれる」という条件によって、売却時の現金収入が無いものとして扱われるため、旧セミセルフレジを巡る収支全額をタックスシールドの対象として処理できるようになっている。
解けなくても、NPV公式は記述しておこう。
設問2「旧セミセルフレジの売却収益は投資額に含める」
旧セミセルフレジ売却で収益が得られているのだが、この収益は22年度期末には含まれていないことに注意が必要だ。この収益分は特別損失に加味されているが、あくまで税効果に影響しているだけだ。その証拠に、法人税率をゼロと仮定して計算してみると、差額CFは2500万円(人件費削減分のみ)となる。
それでは売却収益についてはどこで帳尻を合わせるかというと、「フルセルフレジの代価から差し引かれる」という記述があるので22年度期首の投資額である。この時、フルセルフレジの減価償却費から売却収益を差し引いてはいけないので注意。差し引いて年間償却額を算出すると整数値にならないので誤りだろうと推測できる。
解けなくても、NPV公式や「2023 期末~2027期末の差額CFは全て同額」は記述しておこう。設問3の内容が、フルセルフレジの投資判断を可決した上での話になっているので、話の流れを考慮すると設問2は「可決」が正解だと推定できる。
設問3
「23年度期首にフルセルフレジに更新する場合とセミセルフレジに更新する場合の差額CF」を求めて、設問2の解と比較すれば良い。設問2より計算は楽だ。
解けなくても、NPV公式や「”23年度期首にフルセルフレジに更新する場合とセミセルフレジに更新する場合の差額CF” > “設問2の解”」、そして「2023 期末~2027期末の差額CFは全て同額」は記述しておこう。
第3問
設問2
問題文の最後に「小数点以下を切り上げすること」という指示が書いてある。四捨五入ではない処理を求めるのは異例である。この指示を見逃して四捨五入してしまうと2点くらい失いそうだ。
第4問
設問1
「財務指標をあげながら」と書かれているので、「効率性が改善する」などだけでなく具体的な財務指標を記述する必要がある。
第1問と同じように多様性が重要なので、収益性・効率性・安全性の面からできるだけ多面的に指標を選んで説明できるのが望ましい。とは言っても字数制限が厳しいので、挙げられる指標は高々2つだろう。
短期的なメリットを挙げるよう指示されているので、移動販売事業のリソースをネット通販事業に移す前に効果が現れるような指標を挙げるのが理想だ。例えば、販売用トラックを売却して現金を得たことによる有形固定資産回転率・当座比率の改善である。トラックの限られた容量が不採算の要因であることが与件文で示唆されている点を考慮しても理に適っている。この解答ができた予備校はAASだけだった。
設問2
「企業価値」という語は数理的な背景のある用語で、一次試験の財務会計科目でも企業価値の計算問題が出題される。企業価値をブランド価値のような情緒的な概念だと誤解してしまうと、「移動販売事業を通して企業イメージが良くなる」といった説得力のない回答をしてしまう。