高校化学 東京工業大学2017 (平成29)年度 前期入試問題の解説

分析

解説

第I問

〔1〕

  • 1.クーロン力はイオン価数と結合距離に依存する。
  • 6.説明文はモル質量を指している。用語の厳密な定義を問われている。
  • 7.理想気体では体積は等しいが、実在気体では分子間力があるのでH2の方が大きい。東工大は断りが無ければ気体を実在気体として扱うという方針の様だ。

〔2〕

  • 1.温度を下げる事で、活性化エネルギー以上のエネルギーを持つ分子が減るので反応速度が下がる。
  • 2.反応速度はv = k[A]m[B]n のように表されて、速度定数は濃度ではなく温度に依存する。
  • 4.触媒により活性化エネルギーが小さくなるので、正反応と逆反応はいずれも活発化する。その結果、平衡へ早く達する。
  • 5.圧力が上がると分子同士が衝突しやすくなるので反応速度は上がり得る。
  • 6.活性化エネルギーを超えるエネルギーを持つ分子が2倍になった時に反応速度が2倍になる。

〔3〕

「反応熱 = (生成物の生成熱の和) -(反応物の生成熱の和) 」を使いたいところだが、与えられているのは燃焼熱。

問題自体は簡単だが、熱化学方程式の計算に時間が掛かる。計算する前に選択肢を読んで絞り込んでおけば、一部を計算せずに解答を確定できて時短になる。

〔4〕

東工大にしては気前よく体積や温度の数値が計算しやすいものに設定されている…と思ったら、「分圧比 = 物質量比」を使い体積や温度を使わずに計算した方が速い。まるで引っ掛けだ。

等積・等温の混合気体の問題では 「分圧比 = 物質量比」を使おう。この問題では一度、温度が変化しているので紛らわしい。

〔5〕

ヘンリーの法則に関する問題だが、「体積と圧力の関係」という発展的な内容を扱っている。

状態方程式によると「V ∝ n /P」なので、圧力がいくつであっても、溶媒に溶解する気体の体積は一定である(物質量は圧力に比例する)。これは

これを問題文で与えられた文字で当てはめると、圧力はP0またはPであっても溶解する気体の体積はV0V1 /2 だという事だ。

気体が水に全く溶けない(V0 = 0)と仮定すると検算になる。

第II問

〔6〕

  • 1.Rb, Csの炎色反応なんて誰も知らないだろう。ちなみに第二族元素は放射性元素のRa(第7周期)も洋紅色の炎色反応を示す。
  • 3.原子半径が大きいほどイオンのクーロン力が小さくなるので電気陰性度とイオン化エネルギーが小さくなる。それにしても「イオン化エネルギー」という表現では陰・陽イオンのどちらを指すのか分からないので直すべきだ。
  • 4.硫黄の3種類の同素体が有名だが、WikipediaにあるようにS, P, Oの同素体は意外といっぱいある。
  • 5.共有結合結晶としてdaiamond、黒鉛、Si, SiO2が挙げられる。黒鉛の原子は自由電子を持つため電気伝導性がある。それ以外は価電子が全て共有結合に使われている。その中でSiはクーロン力が小さい為に結合が脆く、僅かに電気伝導性がある。

〔7〕

  • ア.「石灰」の字が入っている物質にはCaが含まれる。
  • イ.Siの単体は天然には存在しないため、ケイ砂(SiO2)をコークスとともに加熱して粗製のSiが生産されている。
  • ウ.「2NaCl +H2SO4 → Na2SO4 +2HCl」とならない仕組みは、弱酸遊離反応と同じだ。 NaClとH2SO4 だとHClが遊離するが、NaHSO4とHCl では後者の方が酸性が強いので反応しない。
  • オ.硫酸の工業的製法「接触法」の過程の一つ。二硫化物イオンはS22- である。
  • 1.塩基性酸化物には金属が含まれるのでA, D, Eに絞られる。
  • 2.有色気体はF2, Cl2, NO2, O3 に限られる。ハロゲンの単体は有色だが、水素と結合すると無色になる。ドライフルーツの風味はSO2にも由来している。

〔8〕

  • ア.AgCl, PbClの(ともに白色)沈殿を生じる。
  • イ.Cu2+, Ag+, Pb2+, Zn2+ がS2- と反応して黒色沈殿(ZnSは白)するが、Zn2+は中性・塩基性条件下のみ。
  • ウ.H2Sは還元剤なのでFe3+をFe2+ にしてしまうので、H2Sを除いて酸化剤の希硝酸を入れて再びFe3+にしている。塩基によって両性金属、Cu2+, Ag+, Fe3+は沈殿し、さらにNH3と錯イオンを作るのがZn2+, Cu2+, Ag+ だ。
  • 1.希硫酸と反応して沈殿を生じるのはCa2+(石膏に含まれる), Pb2+(鉛蓄電池で析出)。
  • 2.クロム酸カリウムやヨウ化カリウムと反応して黄色沈殿を生じる。
  • 6.アルカリ土類金属は CO32- やSO42-と反応して沈殿する。

〔9〕

高純度のNaOHを生産する陽イオン交換膜法が題材。

陰極側では、イオン化傾向がNaよりH2 の方が小さいのでH2Oが分解されH2が発生する。ゆえにOHが多くなる。

陽極側では電解により陽イオンが多くなり、 陰極側では陰イオンが多くなる。陽極側のNa+がクーロン力により交換膜を通り陰極側に行くので陰極側のNaOH濃度が高まるのだ。

〔10〕

球の体積は4πr3 /3 である。初めに単位格子の辺の長さ、M+ , X の半径を 6*108で割っておくと計算が楽だ。

第III問

〔11〕

  • 1.アルカンは標準状態ではC5以上は液体、C18以上で固体だ。
  • 2.アルケンまたは環式アルカンがCnH2n となる。
  • 4.題意が不明瞭。例えばシクロプロパンの置換体も二重結合した化学式を考慮すれば構造異性体が存在する。

〔12〕

  • 3.アルコールのOH基は分極しているので水素結合をし易く、これが分子間力を齎す。アルコール級数が大きくなると近くの官能基が邪魔になり水素結合し難くなるので沸点が低い傾向がある。
  • 4.KMnO4は第一級アルコールをアルデヒドやカルボキシ基に、第二級アルコールをケトンに酸化する。この酸化還元反応によりMnO2の黒色沈殿を生じる。

〔13〕

  • エ.石油を分留すると、沸点の低い物から石油ガス、ナフサ(粗製ガソリン)、灯油、軽油、重油が得られる。
  • 1.ポリアクリロニトリルは毛糸の製造などに使われるが、燃焼すると猛毒のHCNが発生する。
  • 2.ポリ塩化ビニルは文字通りビニールと呼ばれるものの材料になっている。他にも消しゴムや水道管にも利用されており、吸水性はない。
  • 3.ダイオキシン類は塩素を含む物質の不完全燃焼や、薬品類の合成の際、意図しない副合成物として生成する。
  • 4.ナイロン6は、ε-カプロラクタムのアミド結合を開環したもの。
  • 5.高圧下では分岐の多い低密度のポリエチレンが出来る。
  • 6.主な熱硬化性樹脂はホルムアルデヒドの付加縮合を必要とする。

〔15〕

易しい構造決定問題。

FeCl3 水溶液はフェノール類を加えると、フェノールは紫色、o-クレゾールは青色、サリチル酸は赤紫色になる。従って(ウ)よりBはフェノールだと分かるが、実は色を憶えていなくても、炭素数6という事はベンゼン環以外に炭素原子を持たないので特定できる。

ゆえにBはエステル結合をしていたと分かる。

αアミノ酸はproline以外は中心の炭素原子にH, NH2, COOHの官能基を必ず持っている。Cは不斉炭素原子を持たないので側鎖はHである。よってCは炭素数2。

加水分解されたDは等電点3.2なので側鎖にカルボキシ基を含む。五員環なので、このカルボキシ基とアミド基がアミド結合したのがDであり、Dはカルボキシ基を一つ持つと分かる。ゆえにAの端の部分を構成する。

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