中小企業診断士 二次試験 事例Ⅳの解説 H25, H26, H27, H28, H30年度

H25 (2013)年

全ての大問が異例の出題傾向なのだが、知識を広げるには役に立つ。

第1問

与件文には、工場はD社によって設立されるかのように書かれている。ところが第2問では独立開業という形態である事が示唆されている。出資金はBSの借方では固有資産の「投資その他の資産」として表示される。

PLも予想BSもなく、当期のBSだけが示されている。収益性・効率性・安全性の三面から財務指標を取り上げる定番の方法は使えないので、当時の受験者は相当に困惑したことだろう。

金額に変化のあった項目を元に財務指標を選ぶならば、次の三つが順当だろう。

  • 固定比率=固定資産÷純資産
  • 当座比率=(流動資産-棚卸資産-その他流動資産)÷流動負債
  • 負債比率=負債÷自己資本

与件文の冒頭に売上高が記されているので、効率性指標も指摘できる。有形固定資産回転率は出資直後は変化しないが、遊休工場の活用がテーマなので「遊休工場の活用によって今後の効率性改善が期待できる」というストーリーを組み立てることができる。

第2問

設問1

(a)200%定率法はR5年度一次試験でも出題されたので、今後二次試験で再び現れてもおかしくない。

(b)植物工場は子会社として設立されるようだが、それは問題文には明示されておらず、与件文に至っては単なる新事業としか読めない。また、支払利息は財務CFの区分に記載する方法もあるので、計算上無視しても良い。

設問2

字数制限が厳しいが、「タックスシールド」は「節税効果」という日本語を使えば字数節約できる。

設問3

「支払利息=借入金残高✕金利」。借金は早めに返そう。

第3問

一次試験でも問われたことのない「品質コスト」の知識を問うた問題らしい。マニアック過ぎるので、品質コストとは異なる解答をしても部分点が得られただろう。

H26 (2014)年

用語の解説

セントラルキッチン
複数のレストラン・学校・病院などの大量に料理を提供する必要のある外食産業や施設の調理を一手に引き受ける施設

第2問

設問1

「売上原価は売上高に比例している」と説明されているので、売上原価に含まれる固定費はゼロで、売上総利益も売上高に比例している。

問題文の「税引後CF」は、投資額を差し引かないCFなのか差し引いたFCFなのかで議論がある。71点以上を獲得した6つの再現答案は全てCFを回答しており、設問2の誘導と捉えればそれが自然だろう。

ある年度の期末に改装を行ったということは、改装された店舗の営業は翌年度となるので、「その他経費」がH26年度より10%大きくなるのは翌年度からである。

結論としては、H26年度末に改装する方が税引後CFが大きい。

解けなかったとしてもCFの公式を書いて部分点を貰おう。H26年度については、固定資産除却損は特別損失に計上されるので営業利益や経常利益には含まれず、「税引前当期純利益✕0.6+減価償却費+固定資産除却損」と書く必要がある。H27年度は固定資産除却損は計上しないので「営業利益✕0.6+減価償却費」でも構わない。

設問2

「改装した場合は、その他経費が、H26年度よりも10%増加する」という記述は、改装した年度のみ増加するのか、継続して増加したままなのかが不明な悪問。

H28年度以降のCFはどちらの投資判断を選んでも同じなので、差額CFを求めれば現在価値に換算する手間が大幅に省ける。R3年度第2問の問題文で、CFという語が差額CFの意味で用いられていた事もあったので、この計算方法でも正解扱いにならなければならない。

解けなかったとしてもNPVの公式を書いて部分点を貰おう。

問題文が曖昧なせいで本問も投資判断の見解が分かれてしまっているのだが、71点以上を獲得した6つの再現答案は全て「H26年度改装」を回答している。適当でもとにかく答えを書いた者勝ちだ。

第3問

設問1

「小数点第3位を四捨五入すること」と指示されているので、71.70%を71.7%と書いてしまうと誤りになる。

設問2

連続ナップザック問題が登場。解を求めると、5:3:2という綺麗な整数比が得られる。

ところで、この解のもとでは商品Zの貢献利益が負になるのが気になるところ。商品Zの生産をプロジェクトごと停止すれば理論上はこの貢献利益をゼロにできるのだが、そのためには機械設備売却や人員削減等の面倒なことを考慮する必要が出てくる。需要予測は年度によって異なるので、来年度は商品Zの貢献利益が正になるかもしれない。その時は再び機械設備の購入や人材採用をすることになるのだが、ただでさえ珍しい線形計画問題の出題なのに、作問者がそこまで求めているとは考えにくい。

71点以上を獲得した6つの再現答案は全て貢献利益は考慮せずに回答している。迷ったら自分の都合の良いように解釈するのが合理的戦略だろう。

第4問

回答欄がそれぞれ二行分と小さいので、大雑把な説明でも満点が来るはずだ。

H27 (2015)年

問題文中で指定される法人税率は、この年度から40%から30%に変更になった。

第1問

設問1
優れている指標
D社の技術は市場から一定の評価を受けている(第2段落)一方、与件文には販管費が嵩んでいるという記述はないので、売上高営業利益率より売上高総利益率の方が良い。
課題となる指標
X社への依存が大きいため債権の回収効率が低い⇒売上債権回転率
売上債権回転率の低下による短期の資金繰り悪化⇒流動比率
設問2
  • 技術力があるため収益性は高い。
  • 売上債権回転率の悪化が流動負債の返済の不透明性を招いているというシナリオを書けると素晴らしい。

第2問

設問2

(a)設問1で売上高減少に言及されているので、このことに触れる必要がある。

(b)営業レバレッジといった指標に言及できていると良い。

設問3

(1)目標売上高=(固定費+目標利益)÷限界利益率

(2)損益分岐点売上高BEPは、目標売上高の式において「目標利益=0」とすることで得られる。つまり「BEP=固定費÷限界利益率」。本問では営業外損益を固定費として扱う必要があるのがカギ。

第3問

設問1

この設問には以下の二点の難点があり、不適切問題の可能性があるので取り組まない方が良い。

  • 機械設備g の減価償却費をCFに含めるべきかどうか議論が分かれている。KECは含めるべき、「資格とるなら」は埋没費用なので含めるべきでないとしている。
  • 第✕3期の投資額の意味が不明。

「プロジェクトZを採用したことによって増加するCF」と述べられているのて、CFに他事業の損失を含めてはいけない点に注意。

設問2, 3

設問1を捨てると設問2のNPVは計算できないのだが、実は採用するべきプロジェクトは正しく選べる。

設問3を読んでみると、「プロジェクトの流動性を考慮するべき」と書かれている。両プロジェクトの損益予測を比べると、プロジェクトEの方が収益性は高いが初期投資額の回収に時間がかかることが読み取れる。このことから、設問2~3は「投資評価方法の特徴の違い」の理解度を問うために「収益性から判断するとプロジェクトEが望ましいが、安全性の観点からはプロジェクトZが望ましい」という結論を用意したものだと推測できる。

よって、設問2で採用するべきプロジェクトはE。そして、設問3における適切な財務指標は回収期間法であり、その評価方法を用いるとプロジェクトZが望ましいという結論になることが分かる。

第4問

設問2

与件文にある「既存事業との需要動向が異なる」ということを書く必要がある。設問1との繋がりから、「収益と資金繰りが安定する」という解答がベストだろう。

財務の勉強をすれば分かるが、「リスク分散」という語は使わない方が良い。なぜなら、「リスク=分散」だからである。

経営リスクという語には「収益が改善するリスク」も含まれているのだが、この種のリスクはデメリットではないので、この語を答案に使用するのは不適切。「収益の安定化」と表現するのが妥当。

H28 (2016)年

第1問

設問1
食材にこだわり(第5段落)
材料費の高騰⇒棚卸資産回転率(効率性)の悪化
事業は好調なので課題にする必要性は低い。
創作料理店の業績不振が全社業績に影響(第6段落)
売上高総利益率(収益性)の悪化
当期に特別損失を計上しているが、与件文には原因が書かれていない。売上高純利益率を採用するとこの特別損失を加味することになるが、設問2でこのことを説明できないため、避けた方が無難だろう。
新社屋の用地として市内の好適地を取得(第8段落)
短期借入金計上に伴う流動比率(安全性)の悪化
有形固定資産回転率(効率性)の悪化
設問2

例年、第1問設問2では財務の収益性、安全性、効率性について分析するのが定番。しかし本問では「課題が生じた原因」を問われているので、収益性、安全性、効率性の良し悪しを述べると不正解となる。

第2問

設問2

「税引後CFの増加分のPV+売却資産(6年後)のPV>当初投資のPV」というNPVの式から導出するので、法人税率を用いて計算する必要がない。

問題文中に意思決定モデルや割引率が指定されていないため、没問になる可能性がある。時間を有効利用するために、「①で導出した数値を用いて、NPVの式を作る」とでも書いて後回しにしよう。

入力画面表示
4.9173, -, .9434, M+3.9739
320, -, 226, +, 443, -, 264, ÷, MRC, ×, 5, =343.49…
電卓で計算する際の効率的入力方法

「税引後キャッシュフローの増加分」は2年後~6年後の総額と捉えるのが自然だ。

第3問

bは次の要素を満たす必要がある。

  • 共通固定費配布額は料理店にとって埋没費用であり、
  • 貢献利益が正なので、
  • この配布額を一部相殺できる為。

第4問

設問1
収益
ネット上の露出増
営業時間外の予約受付
費用
予約システムの利用料と管理費の増加
設問2

送客手数料とは、店舗に予約や入客が入った際、これに関与した旅行代理店に支払われる手数料のこと(出典)。一般的でもなく一次試験でも扱われない用語を解説なしに用いるのは不親切だ。

損益分岐点売上高BEP=固定費÷限界利益率

H30 (2018)年

第1問

棚卸資産回転率は同業他社と大差が付いているが、71点以上を取得した受験者は全て有形固定資産回転率を選んでいる。与件文から業種等の情報を読み取って分析する必要がある。

第2問

問題文では「キャッシュフロー(CF)」を求めさせているが、正しくはFCFである。FCFの定義は、「投資家(債権者および株主)に対して利払いや配当などにあてることのできる、債権者と株主に帰属するキャッシュフロー」である。投資家が要求する利子や配当の総額は、企業の立場からは資本コストである。したがって、企業価値の向上や成長のためには、FCFが資本コストを上回る必要がある。

設問2

(c)キャッシュフローは「CF」と略すことで字数節約しよう。単に要求CFと実際のCFの大小を比較するのでは説得力に欠けるので、「資本コストを賄えない」等という記述も加えよう。

設問3

定率成長モデルは、毎期の配当額から理論株価を算出する際にも用いられる。企業価値なら「FCF÷(WACC-FCF成長率)」、理論株価なら「配当÷(株主資本コスト-配当成長率)」である。この公式を憶えていただけでも立派なのだが、本問は曲者で、公式中のFCFには「1年後のFCF」を用いるのが一般的なようだ。したがって今年度のFCFに(1+g)を乗する必要がある。

第3問

設問1

問題文に「来年度は外注費が7%上昇すると予測される」と書かれているが、これは日本語としては嘘で、7%上昇するのは外注単価である。この様に、変動費については単価として読み替える必要があるのは財務会計業界の奇習なので慣れよう。

設問2

費用構造を問われた場合は営業レバレッジを論じるのが定番のようだ。

設問3

「営業拠点のさらなる開設と成長性の将来的な見通し」に関わってくるのが与件文で述べられている人手不足(第6段落)である。これに言及できていた受験者は少なく、予備校でもユーキャンだけだった。

第4問

与件文第5段落の「協力個人事業主等の確保・育成および加盟物流業者との緊密な連携とサービス水準の把握・向上がビジネスを展開するうえで重要な要素」がほぼ答え。いかに表現を工夫して多くの要素を盛り込めるかの勝負だ。

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