分析
解答例
東工大数学は2016~2020年は東大・京大を上回る難易度であり、それが頂点に達したのが本年度だった。
従来のように努力や探求心を覗う出題とは打って変わって、発想力を要求する出題が多かった。昔の東大数学の様だ。
第1問
Weitzenböckの不等式が題材になっている。こういった幾何学の不等式の下限値は一般的に正多角形(正多面体)になるので、解けなくても答えだけ書いておこう。
(1)
不等式の証明だから、平方完成を利用する。与式をh, s, tで表すと、hだけが対称性が無い仲間外れなのでこれを基準に平方完成するのが筋が良い。
出題者は座標計算に誘導しているが、ヘロンの公式でも解ける。
(2)
(1)を更に難しくした問題の様に見えるが、(1)において証明すべき式が明示されているので、これを利用すれば(1)が解けなくても解けてしまう。
等号成立条件についても、(1)の等号成立条件が正三角形である事を証明できなくても、大抵は等号成立条件は正多角形なのだから堂々と使えばいい。
第2問
大まかな方針は次の通り。
- f(x)を求めたいので、両辺を微分していく。
- f(xy)のままでは両辺をxで微分する操作が出来ないのでt = xy と置換する。
- |log y|は積分区間で正負が変わるので積分区間を分割する。
「g(x)×∫dt」が含まれているので、これをxで微分すると再び積分関数∫dt が現れる。したがってもう一回微分する必要がある。
最初に置換した時と微分した時に左辺に1/xが出てきているのだが、分数関数の微分は式が複雑になるので両辺をx倍するのが筋が良い。
途中で行う積分計算が煩雑だ。実は、計算過程で得た式にx = 1, 2を代入した式を再利用する事で、積分計算をすべて回避できる。その点でセンスを試す大問と言える。
第3問
(1)
集合Mは複素数同士の乗除なので、zを拡大縮小と回転をしたものである。ちなみに加減により平行移動する。
ここでは縮小と右回転がなされているので、縮小によりMの個数が増えている。領域が円なので、回転に伴うMの個数の変化はない。よって|z|≦r√13と表せる。
複素数平面の知識を利用して計算するのかと思いきや、大部分は点の数え上げという地道な作業である。
(2)
集合Mに対して領域を√13倍して左回転すると考えれば良い。要するに領域の各頂点の座標に3 +2iを掛けるのだ。
格子点が領域に入っているか際どい物もあるが、図を精密に描けば、領域境界を方程式にして検証する必要はないので時短になる。この点は技巧的だ。
zは「実部と虚部が共に整数」と定義されているがL(z, w)はその定義に反している。同じ記号を使い回すのは禁じ手だろう。
第4問
これが話題になった超難問だ。まず、空間上の平面を増やしていくというのがイメージし難いのでかなりセンスが必要とされる。
多くの受験生が一問も答えられなかっただろうが、裏を返せば部分点を得やすいという事だ。答えが分からなくても次の記述によって部分点は得られるだろう。
- 「平面を直線で分割した結果の考察」といった実験
- 分割数が最大になる必要十分条件を示す
- 3次元空間なので、解はnの3次式になる。「N次空間をN-1次空間で分割した数はN次式になる」と書けば探求心を評価されるかも?
(1)が解けなくても、(2)では「どれか二つの交線を平行にすると空間が一つ減るので(1)の解より1小さい」と書けば10点は得られるだろう。(3)も同じ要領で書けば5点は貰える。
(3)は余りに難しい(というか細かい)ので、(2)までを誘導を増やして出題すれば許容範囲内の難易度だった。出題者は(3)の例外処理を解かせたかったのだろうが、入試問題として機能していないので自己満足でしかない。
第5問
(1)
問題文がx > 0 で「常に」減少するのか、「ある点で」減少するのか曖昧なのが良くない。
一階微分では正負が判断できないので二階微分と極限値で評価する。
(2)
整数、数列は実験が大事。bkの具体値を求めればすぐに答えの予想が付くので、この大問だけは東工大らしさが出ている。
(1)の式と見比べる事で対数を取るのは分かるが、bk 内の階乗が邪魔だ。“差×比”型数列をS -rSによって中間項をゴッソリとキャンセルするのと同じ感覚で、階比の形にする事でキャンセルできる。 「確率の最大値」と同じ手法だ。
Mの最大値を態々既約分数で示させるメリットが分からない。今年度は出題センスが悪い。