任天堂が開発・発売したNINTENDO64 用game の一つ『スーパーマリオ64』は、「3Dアクション」という分野を開拓し、ゲーム史上の名作として非常に高く評価されている作品だ。
本作には、マリオシリーズ、ひいてはゲーム史を俯瞰しても斬新と云えるシステムが多く盛り込まれいる。しかし実は、それらの斬新なシステムは、時代ならではの様々な制約から産まれる必然の意匠だった。私はそれに昔から気付いていたが、他にそれを指摘している人は見当たらなかった。だから今回、本作発売20周年という節目にそれを発表することにした。
これは任天堂に取材した訳ではなく、むぎの完全な独自研究であるので注意して頂きたい。
本作に課せられた制約
「スーパーマリオ64」の開発には、時代や立場に由来する厳しい使命・制約が課せられていた。
- N64 のLaunch Title でありN64発売元の看板シリーズとして課せられた、NINTENDO64 の長所を宣伝するという使命
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- 高いpolygon 描画能力
- 3Dスティック
- hardware 性能上の制約
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- polygon の描画能力は、3次元空間の世界を十分に表現するには不十分で、しかも初作という事も有って技術的に未熟な為に迚も貧弱である。
- 記録媒体がcassette でありhardware 最初期の作品であるという背景から、容量が非常に小さい。
- 「マリオシリーズ」の基本設定
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- ジャンプアクション
- ピーチ姫がクッパに攫われる
- 先に進むには、中ボスを倒すことが必要
必然の意匠
3Dアクションゲーム
N64 最大の特徴であるpolygon 描画能力を活かし、広い3次元空間を汎ゆる方向に跳び・駆け回る「3Dアクション」の制作に挑んだ。
3Dスティックでマリオを操作
移動に3Dスティックを活用する事で、従来より遥かに直感的な操作性を実現した。
- 自機の向きを変える際の自由度が、従来の十字ボタンと比べて高まった。
- スティックの傾度で速度を変える。これにより、「ダッシュボタン」を廃することが出来、更に速さの自由度が高まった。
ボス戦で3Dスティックをグリグリしまくる
ゲームの中で花形であるボス戦は、3Dスティックのアピールを念頭に作られている。
- 最初のボムキング戦では、背後に巧く回り込む為に幾度も3Dスティックをグリグリと回さねばならない様になっている。
- クッパ戦では、背後に回り込むだけでなく、クッパの尻尾を掴んでぶん投げる為にやはり3Dスティックを何度も回すことが必要だ。
course は「絵画の中の世界」
N64は、3次元空間の世界を十分に表現するには描画能力が足りない。それ故に描画出来る広さはかなり限られてしまう。
これは深刻な問題なのだが、それを巧く解決するのが「舞台は絵の中の世界」という設定だ。これならば、移動範囲が限られていても違和感を覚えない。
本作は「箱庭ゲー」と形容されることがあるが、こんな裏事情があったのだ。
舞台はキノコ城
これまでのマリオシリーズではcourse を選択する場として、平面の地図画面が用意されていた。本作では絵画の中の世界が舞台となっている為、絵画が沢山飾られている建物を用意する必要がある。そこで、「沢山の絵画が飾られている」という優雅な雰囲気が似合うキノコ城が選ばれた。
いつもの様にクッパがピーチ姫を誘拐するのだから、舞台はクッパ城でも良さそうだが、「沢山の絵画が飾られている」という雰囲気は合わないのだ。
キノコ城がクッパに乗っ取られた!
「ピーチ姫がクッパに攫われる」というマリオシリーズのお約束の下、これまではピーチ姫はクッパ城に閉じ込められていた。しかし本作では舞台はキノコ城なので、「キノコ城がクッパに乗っ取られた」という設定になった。
クッパが次の階への鍵を隠し持っている
マリオシリーズのお決まりの一つに、「各ワールドに中ボスが居り、それを倒さないと次のワールドに進めない」というものが有る。
本作では、各ワールドを各階に対応付けて、そして各階に中ボスであるクッパが待ち構えている。次の階へ進む扉には鍵が掛けられており、この鍵をクッパが隠し持っている。次の階へ進む為には、クッパを倒して鍵を取り戻す必要がある。
本作の舞台は「キノコ城の中」と、これまでと大きく様変わりしたが、このようにして「お決まり」は維持されているのだ。
キノコ城を守るパワースターが隠された!
「course は絵画の中の世界」と「キノコ城がクッパに乗っ取られた」という設定を上手く統合する為に、「クッパが絵の世界にキノコ城を守るパワースターを隠した」という設定が作られ、パワースターを集める事がcourse clear の条件になった。
1 stage 毎に複数course
本作のstage 構成の情報量は、スーファミ時代と較べて、stage が平面から立体になった事で「数十倍」と爆発的に増えた。
それでは作品全体の情報量はどうなっているか?本作の容量は8MB だが、これをスーファミ時代のマリオシリーズと比べると、マリオワールドの16倍、ヨッシーアイランドの4倍である。
つまり、「(1 stage の情報量) / (作品全体の情報量)」が飛躍的に増えたわけだ。この為、これまでのマリオシリーズと同程度のstage 数を収録しようとすると、大幅に容量が足りないのだ。
そこで、1 stage 毎に複数のcourse を用意することにした。これに因って遊べる量を十分に確保した。
球体が使われたキャラの台頭
球体とは、3次元空間のどこから見ても同じ形になる唯一の立体である。これは即ち、球体を描画するには真円の画像を一枚表示させるだけでよい事を示している。
本作ではこの性質を活かし、球体を使ったキャラを多用する事で、大幅なpolygon の節約を実現した。実際、本作で登場した「球体を用いたキャラ」の殆どが本作初登場である。
本作ではボム兵、ボムキング、どんけつ、ボスどんけつ、アイスどんけつ、ホルヘイという様に”ボム兵系キャラ”が充実していたが、これも必然だったのだ。
サンボや1upキノコも同様に画像一枚で描画されているのだが、これらはその画像に顔が描かれている為に、常にカメラ目線になる。
- 真円画像を使ったキャラ
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- ボム兵
- ボムキング(本作初登場)
- どんけつ(本作初登場)
- ボスどんけつ(本作初登場)
- アイスどんけつ(本作初登場)
- ホルヘイ(本作初登場)
- ハナチャン
- メンボ(本作初登場)
- アイクン/おおめだま(本作初登場)
- フワフワさん(本作初登場)
- スローマン(本作初登場)
- クロマメ(本作初登場)
- ビリキュー(本作初登場)
- 鉄球
- サンボ
- 1upキノコ(幕末志士は『奴が来る 四』に於いて「マリオよりも、画面の向こうの我々を狙っていますよ」とネタにしていたが、任天堂は意図して常にカメラ目線になるようにした訳ではなかったのだ。)
本作が有する「3Dアクション」「箱庭」といった独特のシステムは、「斬新な発想」というより寧ろ、その時代ならではの様々な制約が産んだ必然のものだったのだ。
本作について真に評価するべき点は、非常に厳しい制約がある中で高い水準で「一つのゲーム」に仕上げた、宮本茂氏(プロデューサー・ディレクター)の才能と任天堂の技術力にあると思う。