事例Ⅰ
事例Ⅰの本来のテーマである組織・人事に絡めた解答をするのが難しい問題が多かった。
第1問
第1~第9段落にかけて、時系列で強みや弱みが語られている。
古い情報は経営統合前の時点でも引き継がれているかどうか怪しい。例えば、第2段落に「コシの強い蕎麦」とあるが、これが経営統合前の時点でもA社の強みとして残っているという確証はない。だから、情報は第9段落から遡るように書き留めていくのが合理的だ。
回答欄に書き切れないほど情報が多い場合は、VRIOフレームワークに則り稀少性や模倣困難性の観点から絞り込もう。
以下のように、機会を強みに、脅威を弱みとして捉えるように表現を改訂しよう。
- 「地域住民の強い愛顧」→「地域の常連客の存在」
- 「顧客の高齢化」→「顧客獲得不足」
- 「原材料の高騰」→「材料費高騰」
- 強み
- 地域の常連客の存在
- 問題を自主解決する社内風土
- 商品・サービスの質
- 収益の安定性
- 弱み
- 顧客獲得不足
- 弱い商品開発力
- 材料費高騰
- 仕入れの不安定性
第2問
差別化と狙いを区別して分かりやすく記述すべきだが、80点以上の高得点者ですら、そうすることに苦労したようだ。
- 競争回避
- 独自メニュー開発、商品・サービスの向上
- 来店者数増や従業員の負担軽減
- 客層の家族層への絞り込み
- 運営効率改善して収益増
- 蕎麦への資源集中
事例Ⅰは組織戦略の科目なので「蕎麦への資源集中」という要素は重要。これを書けていた予備校はAAS東京、EBA、MMC.
第3問
候補はたくさん挙げられるが、配慮せずに統合してしまうと混乱を生じると想像される点を優先して書こう。低価格戦略や離職率の高さは直ちに混乱を生じるわけではないので、重要ではない。
第4問の回答と関連付けるという視点も大事だ。
- A社との主な客層や商品・サービスの質の違い
- 仕入先がX社経営者と個人的関係に頼っており、仕入が不安定になりうる事
- A社と異なり担当業務間の意思疎通が弱い事
- 一部の社員が抱く統合への不安
事例Ⅰは組織戦略の科目なので「担当業務間の意思疎通が弱い事」や「一部の社員が抱く統合への不安」という要素は重要。
第4問
設問1
問題文が曖昧だが、与件文にて独立志向のある接客リーダーについてやや不自然に詳述されている点に着目すると、「誰がX社を率いるか」の記述は必要と思われる。回答内容が単なる留意点の記述にならないように注意。
- X社従業員の意見を聴取してX社の風土尊重・不安解消
- A社の接客リーダーが統括し、A社の方針を段階的に浸透させる
- X社の取引先とも関係強化
設問2
「競争戦略や成長戦略の観点から助言せよ」と指示されているので、組織戦略について書く必要はない。
- ターゲットは公共交通機関を用いて食べ歩きに訪れる外国人や若者
- 地元産の高級な原材料を使用
- 高級な原材料はX社の卸売業者から安く仕入れる
- 高収益や差別化が狙い
「地元産の高級な原材料を使用する」という要素を書いた受験者は多いが、それをX社の卸売業者から仕入れるという点を忘れてはいけない。
事例Ⅱ
サブスクリプションや女性活躍アピールといった時事ネタが目立った。時事ネタを押さえるのが今後の戦略として有効だろう。
第1問
- 顧客
- 近隣のスポーツチーム
- 少年野球チームが常連でメンバーや保護者に推薦してくれるがチームメンバーの脱退もある
- 近隣の公立小中学校
- 女子野球チームは潜在顧客
- 競合
- 近隣の品揃えの良い専門店
- 近隣の安い量販店
- 自社
- 野球用品が品揃えや提案力に強み
- 刺繍加工技術、納品の確かさ、オリジナル用品の対応、良い立地、ICTの知見
回答欄は150字と大きいが、記述できる内容は書き切れないほど豊富にあるので、続く設問への回答と関連した内容に絞り込む為に記述を後回しにしても良い。
第20段落で女子野球チームは新規顧客と見なされているので、顧客ではなく潜在顧客と記述する必要がある。
3C分析はマーケティング戦略の立案のためのフレームワークなので、自社(Company)を強みと弱みに分ける必要はない。
第2問
「プライシングの新しい流れ」とはサブスクリプションの事だったようだ。これが書けていないと10点くらい失いそうだが、思いつかないからと言って考え続けるのは時間の浪費になりうるので、他の設問を優先しよう。
第3問
近年は大学の女子枠など、女性支援のアピールが流行っているが、それに便乗したと思われる出題。
「社長の思い」が第18~21段落にかけて四点書かれているが、女子野球は三点目である。
予備校も含めて「河川敷で野球教室を開催する」という解答が多いが、的外れだろう。野球ボールに触れたこともない女児に野球を知ってもらう段階から始める必要があるので、小中学校でキャッチボール等の体験イベントを開くのが理に適っている。
野球に興味がない女児が自ら情報収集するはずがないので、SNSのような消極的な発信方法は効果がない。よってプロモーションは近隣の住宅街や駅前での広告が効果的だろう。
提案力がB社の強みの一つなので、相談会を開催するのも有力だ。
第4問
「社長の思い」に対して、強みを活かしつつできる限り応えられる提案をしよう。三点目の女子野球の件は第3問で既に扱っているので無視して良い。全ての要求に応えるには字数制限が足りないので、第3問に含めると良い。
- 体格の3Dスキャンや技術データの送信をすると顧客に適した商品を提案するアプリの開発・提供
- 商品カスタマイズの提案力強化
- 各チームのデータ管理
- 購入データを収集し、顧客の買い替え時期に合わせてSNSで商品の告知して継続購入に繋げる
- 買い替えなどの多様にニーズに応える
- HP上でユニフォーム加工やオリジナル用品の注文受付をして大口の常連顧客増
- メンバーや保護者の要望の情報把握
事例Ⅲ
第1問
- 経営者と工場管理者は専門分野に経験豊富
- 高級品を扱う多品種少量生産体制
「経営者はホテル経営経験者」と「工場管理者は料理人経験者」という二要素をまとめる工夫をしている。
生産面以外の強みを書いてしまわないように注意。第13段落に製品企画部に経験者がいることが書かれているが、製品企画は生産管理には含まれない。生産管理は受注管理、生産計画、購買調達、工程管理、品質管理、原価管理に分けられる。
第2問
人手不足にも関わらず生産面での対応を求められているのがポイントなので、「人手不足を補う為に効率性を高める」という記述が必要。
与件文に書かれた生産面の弱みに着目して、これらの改善を通して生産性を向上するというシナリオがベスト。
- 工場を機能別レイアウトにする(第6段落)
- 惣菜の製造工程の自動化(第7段落)
- 製品仕様のレシピをDB化(第10段落)
- 食材や調味料の需要・発注データを蓄積し、需要予測システムを導入(第11段落)
わざわざ惣菜のフローの図が掲載されているので、製造工程の効率化・自動化を挙げるのは重要だ。EBAは「多品種少量生産型企業に自動化は適さない」と論じているが、本問は人手不足解消が主題なので自動化も正解になるだろう。
第3問
出題の趣旨には「C社の資材調達管理、在庫管理、製造工程管理の課題を整理し、その対応策について助言する」と書かれているので、事例Ⅲのテーマに沿って生産・技術面で提案する必要がある。
- 取引先と調達や在庫の情報を共用する事で取引効率化し費用削減(第3段落)
- 在庫管理を情報システムで全社的共有し、入出庫等も記録する事で、廃棄を削減し在庫適正化(第11段落)
- 生産計画の週次化により調達・在庫・販売費用を削減(第11段落)
- 材料の大口購入で仕入単価削減
- 配送手段の最適化
第4問
問題文の「既存の販売先との関係を一層密接にする」「他のホテルや旅館への販路拡大を図る」「創業から受託品の製造に特化してきた」(=企画開発を強化する必要がある)という文がポイント。
- 製品企画部の経験豊富な外部人材を部のリーダーに抜擢
- 企画開発の経験ある人材を採用、他の従業員にOJTし組織強化
- 既存及び新規の販売先や消費者からニーズ収集してアイデアを改良
- 販売先と二人三脚で開発を進める
第5問
C社社長の意向に応えるのは必要だが、本問は共同事業がテーマとなっているため、「当初は客単価の高い数店舗から始め、10数店舗まで徐々に拡大したい」というX社の意向も考慮する必要がある。
高得点者は妥当とする判断が大勢。ところが、これらの答案の中に「新工場の組織体制」「専用設備」「X社の意向」といった要素を組み込んだ説得力のあるものは一つもなかった。
一方で、妥当でないとする判断をしたがくじんさんは75点、ひつじさんは73点、Makiさんは72点という高得点を得ているので、妥当性の評価自体は重要ではないだろう。AASの解説者も言うように、妥当性に対する理由付けと留意点で評価されると思われる。妥当でないとする方が理由や留意点を書きやすいので、得点しやすそうだ。
模範解答が良質な予備校のうち、KECは妥当とし、AASとEBAは妥当でないという解答だった。
そもそも投資判断には事例Ⅳのような定量分析が必要で、与件文のような定性的情報のみから助言するのは実務上ありえない。
事例Ⅳ
相変わらず不適切問題だらけだが、第2問は悪問の域を超えて不祥事レベル。少なくとも作問者をクビにすべきだ。
第1問
与件文中の人件費は、今後の方針について書かれていると解釈するのが自然なので優先順位は低い。資格の大原は「仕入原価が上昇している」という解答しているが、仕入原価の上昇は予測なので誤り。「感染症の影響で売上が減少した」という回答は、与件文からの推理として悪くない。何が正解なのか予測不能なので、多くの要素を盛り込む必要がある。
第2問
設問1
問題が不完全なだけでなく、無用な煩雑な計算まで要求する歴史的悪問。
固定費=総費用-変動費=総費用-(売上高✕変動費率)
問題文には指定されていないが、R3年度とR4年度の固定費が等しいと仮定しないと答えが出ない。
指示通りに変動費率63.31%を用いて固定費を計算するとR3年度は1141564、R4年度は1141590となる。固定費は一定という前提が崩れているので、問題が破綻している。いずれにしても、年度を指定されていないのでどちらを答えても正解。
目的 | 入力 | 画面表示 |
総費用=売上高-営業利益 | 4547908, -, 527037, M+ | 4020871 |
変動費=売上高✕変動費率 | 4547908, ×, .6331, = | 2879280… |
固定費=総費用-変動費 | M-, MRC | 1141590… |
BEP=固定費÷限界利益率=固定費÷(1-変動費率)
目的 | 入力 | 画面表示 |
限界利益率=1-変動費率 | 1, -, .6331, M+ | 0.3669 |
BEP=固定費÷限界利益率 | 1141590, ÷, MRC, = | 3111447… |
設問2
(1)実は「X製品の生産を継続すると貢献利益が正になるから」という説明は不十分。何故ならば、生産停止しても個別固定費が0にならないという特殊な状況下にあるため、生産を継続する場合と停止する場合の貢献利益の大小を比較する必要があるからだ。
第3問
設問1
正味運転資本とは簡単に言うと「売掛金-買掛金」である。売掛金や買掛金は「現金のやり取りが現時点では生じない勘定科目」だが、会計上の利益はこれらと現金収支を区別しない。正味運転資本が大きいと、現金収入が会計上の利益より少ない。正味運転資本が増減したということは、現金収支が変動したということなので、CFを算出する際に加味する必要がある。
目的 | 入力 | 画面表示 |
各年度共通の税引前利益 | 10000, -, 4000, -, 2200, -, 2200, = | 1600 |
各年度共通の税引後利益 | 税抜 | 1120.00… |
各年度共通の税引後CF | +, 2200, × | 3320.00… |
各年度共通の税引後CFのPVの和 | 3.993, M+ | 13256.76 |
正味運転資本は1年目に生じて5年目に回収する | .681, -, .926, ×, 800, M+ | -196 |
設備を処分価額1100で売却 | .681, ×, 1100, =, 税抜, M+ | 524.37… |
初期投資額を引く | 11000, M-, =, MRC | 2585.13 |
解けなくても、NPV公式、各年度共通の税引後CFは書いておこう。
設問2
わざわざ設備投資の実行タイミングを一年遅らせる理由は、2年度以降の予測販売量が初年度末に判明するため、判明してから設備投資するかどうか見極めたいからだ。予測販売量が判明して採算が取れないと分かった場合は設備投資は実行しない。したがって「設備投資の実行タイミングを一年遅らせる」という問題文は不適切で、正しくは「設備投資の判断を一年遅らせる」である。
年間販売量が5000個の場合はNPVが負になるような問題設定でないと出題の意味をなさないので、メタ推理によってこの場合の計算を省くことができる。
第4問
様々な財務的利点が考えられるが字数制限が厳しいので、多様な解答が存在しうる。ここでは、より適切と考えられる解答を絞り込むために「財務」という語を財務的CFという文脈における狭義の「財務」と捉えてみよう。
また、第一問の経営分析の様に多面性を意識して利点を挙げよう。
設問1
- 工場建設の為の資金調達や投資が不要な為、経営の安全性・効率性が高い
- 固定費削減で収益性が安定する
設問2
- 研究開発費を回収して経営の安全性が改善
- 競争が緩い市場なので高収益が期待できる