高校物理 東京工業大学2004 (平成16)年度 前期入試問題の解説

いずれの大問も応用力を要求される高度な問題。原子分野からも5年ぶりに出題された。2題が天体を扱っている。

解答

[1]

天体の三体問題。三体問題は一般的には現象が極めて複雑になるが、ここでは極力単純化された設定を扱っている。

(b)

(a)での考察を元に立式する。これらの式を利用してこの後の問題を解いていく。複雑な式が多数出てきたように見えるが、天体1のx方向は恒等式であり、天体3の式はいずれも天体2の式と同値なので実質的に3つの式を利用する。

(c)

ベクトルの考え方と同様の計算をすれば効率的。重心の式を作ると、Mb -2mc = 0を導けばよいと分かる。

(d)

L = 2aを導くことを目標にする。

3体が正三角形を形成するという興味深い事実が判明したが、実は3体が万有引力と遠心力が釣り合って安定する配置には正三角形と共線がある。

(e)

(d)が誘導になっているが、(d)が解けなくてもL = 2aを代入することで解答できる。

この問で得た角速度に加えて、回転中心が3体の重心であること(c)、3体が正三角形に位置すること(d)の3条件が3体が安定するための必要十分条件である。

[2]

珍しい設定のコンデンサーの問題。

(b, c)

P2はt = 0, t1 の時は別の極板と接着して静電誘導が起きているので、それらが離れた際のP2の電荷の和は0ではない。その事実は問題文で明示されている訳ではなく、自力で気付かないとこの先の小問も全て間違うので、中々難しい大問だと言える。

[3]

中性子星のX線(ガンマ線)バーストが題材。原子分野からは5年ぶりの出題となったが、基礎知識を覚えただけでは歯が立たない応用問題だ。この大問の平均点はかなり低かっただろう。

(b)

水素の原子核は陽子1個。与えられた式は、56個の陽子の中で30個がβ崩壊して陽電子を放出して中性子に変化し、残った陽子26個・中性子30個で鉄原子1個を作るという反応を表している。

核融合により結合エネルギーの差(質量欠損)が放出される。更に、β崩壊により飛び出した陽電子は電子と対消滅して光子になる。この両者のエネルギーの和を求める。

質量欠損については原子力安全システム研究所の資料が分かりやすい。

(c)

鉄原子を気体として扱っているのは、相転移に必要なエネルギーを計算させないための配慮だろう。

生成した鉄を一つの塊と見做し、これに爆発で生じたエネルギーが運動エネルギーとして与えられたと考えれば分かりやすい。

(d)

難問。

題意の把握からして大変だ。ある量の水素が中性子星に降り注ぎ、(a)に対応するエネルギーが定常X線として放射される(E2)。その後、(b)に対応するエネルギーがX線バーストとして放射される(E1)。つまり、両者のエネルギーは同じ量の水素からもたらされているのだ。

E1 におけるmFe の値が不明なので、これを与えられた静止エネルギーと結合エネルギーの物理定数を用いて組み立てる。化学におけるエネルギー図を用いた反応熱の計算と似た作業だ。

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