中小企業診断士 令和六(2024)年度第二次試験 筆記(事例Ⅰ Ⅱ Ⅲ)の再現答案

二次試験の受験テクニックが普及していることへ対抗するためなのか、3PLやブランド価値など、一次試験の知識が必要な設問が増えている。

事例Ⅰ、Ⅱに関しては易しかったので、我ながら見事な出来だと思う。事例Ⅲは相当に手強かったが、難化に対応した時間管理が奏功して論理的破綻のない回答が書けた。

事例Ⅰ

第1問

(a)
①協力会事業者との連携②地元密着の良質サービス③自社倉庫保有
(b)
①非効率な物流管理②弱い顧客開拓力③旧態依然の組織と人事制度

2000年当時の状況は第4~5段落にほとんど書かれているので、第13段落の「創業時から人事処遇制度はほとんど変更がなされないまま」という記述は見落としやすいだろう。

第2問

答案
プロジェクトチームを組織したのは、既存ノウハウを活かして首都圏進出する上で、市場調査が必要だった為。狙いは、長女の大手物流企業での豊富な経験を活かす事と、後継者として経験を積ませる事。

首都圏事業部自体ではなくそのプロジェクトチームを立ち上げた理由を問われているので、市場調査が目的だと答えた。

第3問

答案
A社は協力会を運営しており多様な荷主と関係が強く輸送に強みがあり、地元密着の良質サービスを提供しており、自社倉庫を保有している。Z社は県内進出に際してそれらの機会を活かしたかった為。

ほとんどA社の強みを述べるだけの回答になって第1問と重複してしまっているがこれで良いのだろうか?一応、「県内進出」というワードを盛り込み、A社についての説明には「強み」という表現を用いてZ社については「機会」という表現を用いて立場を明確化した。

第4問

設問1
答案
①長男に県内事業部の管理も学ばせて3代目として育成する為②2代目が両事業部を総括する体制を整える上で、経営幹部が彼女をサポートする必要がある為。

与件文で長男と2代目の配置転換について言及されているので、それぞれの理由を回答する必要がある。

設問2
答案
①事業部間で連携強化し、首都圏事業でのノウハウを活かし県内事業部のIT化とOJTを進めて人手不足に対応しつつZ社からの受託業務の範囲拡大②Z社と人的交流とIT連携を進めて信頼関係と業務効率を強化。

事例Ⅰは組織・人事がテーマなので、「事業部間で連携強化し、首都圏事業でのノウハウを活かす」という記述は必要。

与件文によると人手不足が起きているのは首都圏らしいが、いかにも重要な要素だと感じたので盛り込んでおいた。物流業が本年度の事例として選ばれたのは「物流2024年問題」が関わっていると思われるので、人手不足に言及すれば得点になるだろう。

事例Ⅱ

第1問

S
①3代目の熱意とデザインセンス②自社カフェ保有③自社ECサイト保有
W
売上が減少しており、販路が細り情報発信が困難。自社製品が比較的高い。
O
①X焼の陶磁器祭り②動画を通した若者や外国人からの関心③様々な窯元との協業可能性
T
①安価でデザイン性ある外国製品②少子高齢化とコロナ禍による市場縮小

第2問

答案
X焼とX市郷土料理のセットを企画する。郷土料理の盛り付け方を紹介し、X焼は郷土料理に合う色と形にし感覚価値訴求。郷土料理の歴史も紹介し、X焼をガスコンロで直接使える様にして自宅再現可能だと観念価値訴求。

X焼を利用しつつ観念価値の訴求ができそうな企画はこれくらいしかないのではないか。

第3問

答案
3代目のデザイナーズホテルの成功経験を活かして自社カフェを拡大しレストランを開き、様々な窯元のX焼を用いて食事を提供する事でX焼に触れる機会を作り、自社飲食事業の売上拡大と様々な窯元に貢献。

令和5年度にサブスクが正解として想定された設問があったので「X焼のサブスク」と回答した受験生もいたようだが、次の理由で不適切だろう。

  • 他社も同様のサービスを展開した際に差別化が難しい。
  • 単位注文あたりの費用は、往復送料などで少なくとも2千円はかかる。したがって一個数千円の高級食器でなければ収益化できない。

やはりB社の強みを活かす提案が望ましい。

第4問

答案
施策は①サイト上でX焼の新デザインを顧客から募り、人気を得たデザインを製造し店舗で販売する事で顧客の関心を集め、新製品販売により売上拡大②サイト上に食器愛好家向けBBSを開設し、自社カフェで定期的に愛好家が集まる食事会を開きX焼を用いて食事を提供する事で愛顧拡大、飲食事業の売上拡大、X市に貢献。

提案はより具体性のあるものを一つだけ挙げる方が良いかもしれないし、2つ目の提案は第3問の回答に似ているが、堅実に得点する戦略としては正しかったと思う。

事例Ⅲ

第2問と第3問の回答要素の切り分けに苦心した。

第1問

答案
①C社長の施設レイアウト設計と提案の能力②特注品の受託生産能力③X社にメンテナンスサービスを提供④部品構成表はデジタル化され製造部で活用されている。

第2問

答案
改善策は①生産計画をコンピュータで全社的に立案し計画改訂の頻度を高め生産効率化②OJTで多能工化し生産工程のボトルネックとなっている製缶業務を強化し生産リードタイム短縮③製造作業を標準化・マニュアル化・外段取り化で効率化。

製缶業務のボトルネック改善は必須の要素だろう。

第3問

答案
進め方は①受注情報・設計データをDB化し全社的共有②OJTで多能工化し納期変更に迅速柔軟に対応③ソフトウェアを用いて経験に頼らず工数見積りし、無駄な会議を減らして納期を守る。

工数見積りの改善は必須の要素だろう。

第4問

答案
対策は①需要予測に数理モデルや市場調査を用いて正確にコスト見積もり②調達手段を改善し材料費を抑える③X社以外との取引を増やしX社依存低減でX社との交渉の優位性を高める④X社以外にもメンテナンスを有料で提供し、本体価格の上昇を抑える。

2022年1月の下請法ガイドライン改正が意識された問題。良い答案が思い浮かばなかったので、問題文の「価格交渉を円滑に行う」という要素を「価格の上昇を抑える」、「交渉を優位に進める」という意味も含まれていると拡大解釈し、四つもの提案を乱発した。結果的に多面的な回答になってるし、与件文の「X社への依存度が高い」「X社にのみメンテナンスを提供している」という要素を反映しているので得点にはなるだろう。

第5問

答案
施策は①製造企画部を設立し、C社長の施設レイアウト設計と提案の能力を活かして自ら従業員を教育する②これまでの受注・設計情報をDB化してノウハウを蓄積・活用し製造の効率化③X社と連携し施設の計画やコストを正確に把握し堅実に事業を進める。

C社長の施設レイアウト設計と提案の能力を活かすのは必須の要素だろう。多分「社長自ら」ではなく単に「自ら」と書いてしまったので、「中小企業診断士自ら」と解釈されてしまうと得点にならない…。

受験の感想

試験対策

一次試験は800時間の勉強が必要と言われているが、思いの外忙しくて250時間しか勉強できず、足切りギリギリの点数での合格となってしまった。二次試験の対策には350時間必要なところを、夏休みを活かして150時間と比較的十分(?)に時間を取れた。

比較的短時間の勉強でも何とかなったのにはいくつか理由がある。1つ目は日頃からビジネスに関心を持っていたこと。

2つ目は国語力だ。事例Ⅰ~Ⅲは受験国語によく準えられる。実は私は大学受験の時に東京大学の国語の模試で合格点を取れていたほど国語力は強いので、事例Ⅳに比べると遥かに楽だった。与件文の要素から解決策を導出する手続きはパズルゲームのようで中々楽しかった。

3つ目は過去問演習を重視したこと。過去問演習をすれば苦手な部分が浮き彫りになり、そこを集中的に強化することで効率的に合格水準に達することが出来る。私は予備校や「ふぞろい」のような参考書は全く使わず、過去問とネット上の情報を参考にして費用ゼロで勉強した。

問題用紙と解答用紙は印刷して本番を模して行う方が良い。AASの小冊子形式で印刷しよう。

電卓の購入先は、ヤフオクで型落ち品を格安で販売しているmoguさん。多機能な電卓が600円で買えるのでオススメ!

試験本番

私の試験会場は早稲田大学戸山キャンパスで、受験者は9割が男性、平均年齢は推定50歳程度だった。中には20歳程度と思われる若者も居た。

試験開始と共に、問題用紙をビリビリと切り離す音があちこちから聴こえてきた。メモとして使うために問題用紙を切り離して使うテクニックは知っていたが、私はメモは最小限に留めて頭の中で文章を構築するスタイルなので切り離さなかった。そもそも切り離さなくても、問題文のページに余白は十分にあった。

試験終了後は科目毎に毎回トイレには長蛇の列ができていたので、試験前に済ませておこう。

時間を確認するために300円の腕時計をダイソーで買ってきて装着していた。何故か事例Ⅳの試験中に小さいアラーム音を何度も発して周りに迷惑をかけてしまった。皆さんも注意しよう!!

口述試験対策

質問は、二事例から二問ずつ出題されるのが一般的なようだ。回答が的を得ていない場合は追加の質問がなされる。

質問パターンは各事例で10以上はあるようだ。面接直後に受験生が質問内容をインターネット上に公開することを協会は想定しているはずなので、質問内容は時間帯によって決まっている思われる。ただし、筆記試験の設問と同じ質問がなされもことがあるので、筆記試験で誤った回答について質問される場合もあるのかもしれない。いずれにしても、予備校の答案を研究するのが有力な試験対策になるだろう。

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